第35回目のレビューは、佐藤隆太主演、舞台「いまを生きる」です。
1989年に米俳優ロビン・ウィリアムズ主演で映画化された不朽の名作を、日本で初舞台化した本作。全寮制の名門男子校に赴任してきた破天荒な英語教師ジョン・キーティングが、厳格な規則に縛られている学生たちに、詩を通して生きることの素晴らしさを伝えていく、心温まる学園ドラマです。
風変わりな教師、ジョン・キーティング
主人公のジョン・キーティングを演じたのは、佐藤隆太さん。
2か月前も篠原涼子さんと舞台「アンナ・クリスティ」に出演されていたので、立て続けの舞台でお忙しいです。
(舞台「アンナ・クリスティ」の観劇レビューは第32回に掲載)
『アンナ・クリスティ』を観劇した感想(ネタバレあり) - 若者による若者のための観劇レビュー
キーティングの授業は、情熱的で時にユーモラスでかなり風変わり。最初は抵抗感を表していた生徒ですが、少しづつ生徒の心を動かしていきます。
佐藤隆太さんの熱血教師といえば、ドラマ「ROOKIES」がまず思い浮かびます。
ROOKIESで佐藤隆太さんが演じた川藤先生とキーティング先生は、とても似ているような・・・。どちらもまっすぐな信念を持つ教師役で、非常に適役です。
キーティングが自由に自分らしく生きる素晴らしさを説くため、生徒に嘘偽りなくぶつかっていく様は、とてもパワフルで知性に溢れていました。
本作を観終わって感じたことは、”いまを生きる”という本作品のタイトルの本当の意味。自分の人生に複雑に絡んでくる学校や友達や家族との関係に悩み、大人からの圧力や規律に耐えなければならない日々を送る生徒に、キーティングは「自分らしく生きろ」と伝えます。
“生きる”という最も身近で最も難解な行為を、論理的に目を見てまっすぐ生徒へ伝えるキーティングは非常に賢明な人間であると感じました。
それと同時に、生徒から見えないところでは悩み苦しみ、キーティング自身も生きることにもがきながら”今”を生きているシーンが見受けられ、自分らしく生きることの難しさが伝わってきます。
そんなキーティングを佐藤隆太さんは非常に力強く、時に繊細に演じられておりました。
生徒の心が動く瞬間
キーティングの言葉に心を動かされ、自分は芝居がしたいんだという夢に向かって進むことを決意した生徒、ニール・ペリーは親の反対を押し切って舞台に出演します。しかし、父親から夢を捨てろと痛烈に反対されたニールは憔悴し、命を絶ってしまうのです。
ニールの最期は、彼を神聖な空間へ誘うかのごとく暗闇のなかに白く浮かび上がらせるようなライトの演出が象徴的でした。
命を絶った者と、残された者。
いまを自分らしく生きろと言ったことで、命を絶ってしまった少年。
キーティングは責任を背負わされ、学校をクビになります。でも、教え子たちは分かっている。ニールが亡くなったのは先生のせいじゃない、先生からはとても大切な事を教わったと。
生きることは残酷で、でも、生きることは素晴らしい。
そんなことを私も教えられたような気がしました。
ステージの周りを約230度客席が囲んでいる劇場で、私はかなり右側、ほとんどステージ真横の位置から観劇しました。
真正面から観劇するのとはかなり見え方が異なるだろうなぁという印象を持ちました。
舞台上には、8本の可動式の柱が立っており、シーンが変わるごとに柱の位置が変わる仕組み。
空間を区切ったり、または、柱を左右に下げることで一つの大きな空間へ変えたり、シンプルだがスピーディーに次のシーンへ移動するので見やすい演出でした。
小道具も少なく、できるだけシンプルに、演者だけがステージ上にいるような見せ方だったのが印象的でした。
また、本作は劇中の音楽を生演奏しており、舞台後方でオーケストラが演奏しておりました。登場人物の心情を曲で表現しているようなシーンが多く登場し、言葉数は多くなくとも、人物の心情が客席に伝わりやすく、ゆったりと流れていくシーンの数々に音楽が寄り添っていました。
時代背景も国も異なる作品ですが、今の日本にも必要な教えが沢山盛り込まれており、観終わったあと、心が熱くなる作品でした。
【公演情報】
舞台「いまを生きる」
原作:トム・シュルマン
上演台本・演出:上田一豪
出演:佐藤隆太、宮近海斗(Travis Japan/ジャニーズJr.)、永田崇人、七五三掛龍也(Travis Japan/ジャニーズJr.)、中村海人(Travis Japan/ジャニーズJr.)、浦上晟周、田川隼嗣、冨家規政、羽瀬川なぎ、大和田伸也
東京公演: 2018年10月5日(金)~24日(水) 新国立劇場 中劇場
観劇日:2018年10月8日(月・祝) 12:00公演