若者による若者のための観劇レビュー

24歳が、24歳なりの視点で、同年代の若者に舞台の素晴らしさを、鑑賞した舞台のレビューを通して伝えていきたいブログです

舞台『密やかな結晶』を観劇した感想(ネタバレあり)

第27回目のレビューは、石原さとみさん主演の『密やかな結晶』です。

 

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本作は、石原さとみさんが4年ぶりに舞台へ出演されるということで非常に注目されております。

 

 

舞台は、とある島。

 

昨日まで存在していたものが今日は消滅している、物もその物にまつわる記憶も全てが跡形もなく消滅していってしまう不思議な島。

 

そんな不思議な島に住む小説家、“わたし”は両親を幼い頃に亡くし、おじいさんと二人暮らし。おじいさんは“わたし”が幼いころから共に暮らしているお世話係だが、見た目がずっと20歳のままで止まっている。

 

“わたし”は日々自宅で小説を書き、その原稿を受け取りに編集者“R氏”が時々家を訪ねてくる。そんな日々の生活の中で、今日も記憶が少しずつ消滅している。

 

ある日R氏は、誰にも言っていない秘密を二人に告白する。

 

自分は「記憶保持者」である、と。

 

記憶が消えていくはずのこの島で、稀に存在する、「記憶が消えない人間」。

記憶保持者は、島の秩序を守る謎の組織「秘密警察」によって連行されてしまう。

 

R氏の告白がきっかけとなって、3人の人間関係は大きく変わり、また、秘密警察が3人に近づき追いつめていく。

 

消滅が止まることなく進んでいくこの島で、それぞれの運命とともに3人はどう生きるのか・・・。

 

 

石原さとみ演じる小説家“わたし”と 20歳のおじいさん

 

 

石原さとみさん演じる“わたし”は落ち着いた大人の女性。記憶は日々消滅してしまうけれど、消滅したものに対して好奇心を抱き、想像を膨らませたりと、発想がとても豊かです。

 

また、R氏の告白がきっかけで、彼を必死に秘密警察から守ろうと、勇敢な一面も持ち合わせています。

 

そんな“わたし”を石原さとみさんはとても丁寧に演じておりました。

 

天真爛漫なキャラクターを演じられている時が多い印象ですが、今回は、小説を書きながら島でひっそりと暮らす女性。

ものが消滅しまうことや自分の運命を受け入れながらしっかりと生きている姿が彼女にぴったりと重なりました。

 

言葉のひとつひとつにしっかりと芯があり、強い。

 

R氏の告白によって、自分の気持ちに素直になり、彼を守り、彼のそばにいることが生きている意味なのだと強く感じます。

 

その気持ちが彼にも届き、彼を精神面から支える大きな存在となっていきます。

 

 

後半になるにつれて、鈴木浩介さん演じるR氏との2人きりのシーンが多く、繊細な会話劇が繰り広げられます。

 

消滅や警察の追手という運命から逃れられない不安や恐怖が、二人を引き裂こうとします。ですが、その恐怖にすら立ち向かおうとする二人の姿に、切なさと同時に胸がじわーっと温かくなったことを覚えています。

 

 

 

若手俳優村上虹郎さんが演じたのは20歳のおじいさん。

確かに言葉遣いや記憶はおじいさんという、なんとも不思議な設定のキャラクターです。

 

 

でも不思議とおじいさんに見えてくるんですよね、動きは機敏なんですが・・・(笑)

“わたし” を思いやる気持ちやお世話をしている姿を見ていると自然と見えてきました。

 

“わたし”が危険を冒してR氏を匿うと決めたときも、おじいさんは彼女の気持ちを汲んでサポートをします。

“わたし”に対して親同然の愛情があるからこそ、「記憶保持者」であるR氏を匿うことで危険な状況下で生活させたくない。しかし、“わたし”の気持ちにそっと寄り添い、近くから見守ることを決めたのです。

 

 

おじいさんはとある事件に巻き込まれ、舞台上でたったひとり、命の終わりを迎えます。最期の最後まで“わたし”のことを心配し、想い続ける姿が切なく、印象的なシーンでした。

 

 

秘密警察と記憶保持者のR氏

 

 

“わたし”の小説編集者であり記憶保持者でもあるR氏を演じたのは鈴木浩介さん。

役によって2枚目も3枚目も演じられる、とても役幅の広い役者さんです。

 

鈴木さんが舞台上にいることで、作品がしっかり引き締まる、そんな感覚にすらなりました。

 

 

秘密警察のリーダーを演じられていたのは山内圭哉さん。この方も鈴木さん同様、私の大好きな役者さんです。

昨年は劇団新感線「髑髏城の七人Season風」で兵庫というひょうきんな役柄を演じられておりましたが、今回も。この方にコミカルな役を演じさせたらピカイチです。

 

 

鈴木さんと山内さんが対面するシーンが1シーンだけありました。

 

誤解が解け、お互いの気持ちに素直になりたいのになれない兄弟。二人の喋り方や距離感が、もどかしさを物語っておりました。なんとも人間らしいのですが、胸が苦しくなるシーンでした。

 

 

記憶が消滅する者と記憶が残る者

 

 

R氏は匿われる生活を続けるうちに、生きる必要性や存在価値を見出せなくなっていきます。とうとう”小説”も消滅し、自らの仕事も失う羽目に。

 

運命に翻弄され、未来へ絶望していくなかで、“わたし”が彼を支え続けます。

 

 

しかし、、“わたし”に大きな変化が。消滅は体の一部にまで及んできたのです。

 

 

いつか “わたし”の全てが消滅する。

 

 

R氏はそんな“わたし”を、本来の豊かな記憶の世界へ引き戻そうと必死に彼女に語りかけます。

 

 

記憶が消滅する者と記憶が残る者。

それぞれがお互いを思いやればやるほど、見えない溝が深くなっていくようで、静かで苦しい時間が流れます。

 

 

石原さとみさんと鈴木浩介さんが、それぞれの感情描写を繊細に演じており、感情を

絞って吐く、言葉に気持ちを封じ込めて届ける、そんなふたりの会話に胸がぎゅっとなりました。

 

 

運命には抗えず、“わたし”は最期のときを迎えます。

 

 

このシーンは、彼女が横になっている隠し部屋だけがステージ上にある状態。

他の舞台装置が全て袖にしまわれ、真っ暗な空間に二人のいる部屋だけが浮かんでいるように見えました。

 

 

 

もうすぐ命尽きそうな“わたし”をR氏は抱きかかえ、行くな、まだ、行かないで。と呼びかけます。

 

でも“わたし”には運命を受け入れる覚悟がありました。

 

“わたし”が確かに生きていたという記憶はR氏のなかで生き続ける。この記憶は消滅しない。

 

だからこそ、“わたし”は運命を受け入れることができたのだと感じます。

 

 

 

 

そして彼女は消滅します。

 

 

儚い最期を迎えたあと、一番最初に消滅した“バラ”がこの島に戻ってきたのです。

 

 

バラの花びらが舞台上いっぱいに降り注ぎ、なんとも美しく幻想的な空間が広がりました。

 

 

 

 

哀しい物語のようで、人と人との心のつながりがとても温かく感じ、記憶することとは、生きるとは、一体なんなのかを考えさせられる作品でした。

 

 

 

 

想像していなかった演出

 

 

 

舞台は“回り舞台”というステージの中心に回転式の舞台を設置し、回転させながら、場面転換する装置でした。

 

 

転換中に暗転させず、話の流れを切らなくていいので、場面転換の多い作品によく用いられているなぁという印象です。

 

 

また、秘密警察の出演シーンは、歌って踊るミュージカルのようなシーンとなっており、“わたし”やおじいさん、R氏の会話劇とは全く異なる色彩で、緩急のはっきりとした演出が想像と異なりかなり驚きでした。

 

 

 

 

この作品は原作があるそうなので、ぜひ読んでみたいと思います。

 

 

 

今回、東京千秋楽公演を観劇したので、東京公演はもう終演してしまいましたが、富山・大阪・久留米公演が3月からございます。

 

 

 

皆様もぜひ行ってみてください!

 

 

 

【公演情報】

 

 

『密やかな結晶』

 

原作:小川洋子

 

脚本・演出:鄭義信

 

出演:石原さとみ村上虹郎鈴木浩介山内圭哉ベンガル、藤原季節、山田ジェームズ武、福山康平、風間由次郎、江戸川萬時、益山寛司、キキ花香、山村涼子

 

公演:

 

東京公演:2018年2月2日(金)~2月25日(日) 東京芸術劇場プレイハウス

 

富山公演:3月3日(土)~3月4日(日) 富山県民会館

 

大阪公演:3月8日(木)~3月11日(日) 大阪 新歌舞伎座

 

久留米公演:3月17日(土)~3月18日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール

 

観劇日:2018年2月25日(日)13:00公演  (東京千秋楽)